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東京地方裁判所 昭和50年(行ウ)55号 判決

東京都渋谷区恵比寿三丁目四一番九号

恵比寿台ハイツ七〇一号

原告

和田弘

右訴訟代理人弁護士

平山国弘

真田順司

川畑雄三

右訴訟復代理人弁護士

村崎満

東京都渋谷区宇田川町一丁目三番地

被告

渋谷税務署長

右指定代理人

野崎悦宏

比嘉毅

小野政一

鳴海悠祐

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

被告が昭和四六年七月三一日付で原告の昭和四四年分の所得税についてした再更正及び過少申告加算税賦課決定を取消す。

との判決

二  被告

主文と同旨の判決

第二原告の請求原因

一  原告の昭和四四年分の所得税についてした確定申告並びにこれに対して被告のした更正及び過少申告加算税賦課決定並びに再更正(以下「本件再更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件決定」という。)の経緯は別表記載のとおりである。

二  しかしながら、本件再更正には原告の所得を過大に認定した違法があり、したがつて、本件再更正を前提としてされた本件決定も違法である。よつて、本件再更正及び本件決定の取消しを求める。

第三請求原因に対する被告の認否及び主張

一  請求原因に対する認否

請求原因一の事実は認めるが、同二は争う。

二  被告の主張

原告の昭和四四年分の各種所得の金額及びその算出根拠は次のとおりであり、本件再更正は右所得金額と同額であつて、これに基づき所得税額及び過少申告加算税額を算出したものであるから適法である。

1  事業所得 三、九五七、五四四円

2  配当所得 五三五、〇〇〇円

3  給与所得 一八四、〇〇〇円

4  譲渡所得 三、七二二、〇〇〇円

(一) 原告は、昭和四一年九月一日、三共開発株式会社より同社所有の栃木県那須郡那須町大字寺子乙字東山八三八-二〇山林五、〇五〇平方メートル(以下「本件土地」という。)を代金三、九七八、〇〇〇円で買い受けた。

(二) 原告は、昭和四二年三月一日、大栄信用組合(以下「組合」という。)と取引約定契約を締結し、組合から数次にわたり証書及び手形貸付けにより金銭を借り入れ、昭和四三年九月末現在の貸付金残高は一九、〇四二、〇四二円(以下「本件債務」という。)に達した。そこで、原告は、昭和四四年七月組合との間の合意により、本件土地をもつて本件債務のうち八、〇〇〇、〇〇〇円の債務の代物弁済にあてた。

(三) 原告は、債務を消滅せしめる対価として本件土地を債権者に譲渡したのであるから右は資産の譲渡に当たり、その消滅した債務額八、〇〇〇、〇〇〇円をもつて収入金額とし、前記取得費の額三、九七八、〇〇〇円及び特別控除の額三〇〇、〇〇〇円を控除し、原告の譲渡所得の額を三、七二二、〇〇〇円と算定した。

第四被告の主張に対する原告の認否及び反論

一  被告の主張に対する認否

被告の主張のうち、本件土地の買主が原告であること、その実質的な売買代金額が三、九七八、〇〇〇円であること及び譲渡所得の金額は否認し、本件再更正が適法であるとの主張は争い、その余の主張は認める。

二  原告の反論

1  本件土地は、株式会社マヒナプロダクションの運営に当つていた今村公彦こと下坂渉(以下「下坂」という。)が、倒産に頻した同会社の更生を図るために原告名義を利用して購入したものである。したがつて、本件土地の実質的な買主は右会社である。

2  仮に原告に譲渡所得が帰属するとしても、本件においては譲渡益は存在しない。すなわち、

(一) 本件再更正において本件土地の取得費とされた三、九七八、〇〇〇円は、真実の取引価格ではなく、実際の売買代金額ははるかに高額の筈である。

(二) 仮に取得費が真実三、九七八、〇〇〇円であれば、本件土地の客観的価格すなわち時価は、不動産の値上りを年一五パーセントとすれば四、六〇〇、〇〇〇円となり、本件土地の代物弁済によつて消滅した債務額八、〇〇〇、〇〇〇円との差額は原告が組合から債務免除ないしは贈与を受けたものと解すべきである。ところで、譲渡所得とは経費その他を加算した取得価格と譲渡価格との差額益であるが、ここにいう譲渡価格とは単なる譲渡代金又はこれに代わるものではなく客観的な適正時価を意味するから、右債務免除ないしは贈与を受けたと解すべき価額相当分は、譲渡所得としては課税の対象とすべきではない。

3  仮にそうでないとしても、代物弁済に至るまでの本件土地の管理費用及び処分経費も所得から控除すべきであるし、また、本件土地等に関連して下坂に五〇、〇〇〇、〇〇〇円を横領されたのであるから、右金額を雑損控除すべきである。

第五証拠関係

一  原告

1  提出した書証

甲第一号証

2  援用した証言等

証人矢田昭吾の証言及び原告本人尋問の結果

3  乙号証の成立の認否

乙第一号証の一及び二の原本の存在及び原告名下の印影が原告の印章によることは認めるが成立は知らない。第一号証の三及び第二号証の原本の存在及び成立は認める。第三号証の一、二及び第四号証の原本の存在は認めるがその成立は知らない。第五号証ないし第七号証の成立は認める。

二  被告

1  提出した書証

乙第一号証の一ないし三、第二号証、第三号証の一、二及び第四号証ないし第七号証

2  甲号証の成立の認否

甲第一号証の原本の存在及び成立は知らない。

理由

一  請求原因一の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件再更正に原告主張のように所得金額を過大に認定した違法があるかどうかについて判断する。

1  被告の主張のうち、本件土地の買主、実質的な売買代金額、譲渡所得の金額及び被告主張の譲渡所得があることを前提とした本件再更正が適法であることを除くその余の点については、当事者間に争いがない。

2  そこで、次に、本件譲渡所得が原告に帰属するかどうかの点について判断する。

本件土地がもと三共開発株式会社の所有であつたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第五ないし第七号証、証人矢田昭吾の証言及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、下坂が昭和四一年九月一日、原告を代理して前記会社から本件土地を買い受ける旨の契約を締結し、同月五日、その旨の所有権移転登記がされたことが認められ、そうして、前掲各証拠によれば、下坂は当時原告の主宰するマヒナスターズのマネージャーとして実務の一切を任されていたこと、原告は、昭和四二年三、四月ころ、本件土地の所有名義が原告となつていることを知つたが何らの措置もとらなかつたこと、その後原告は、矢田昭吾に本件債務の処理を依頼し、右矢田は、昭和四四年七月一八日、組合との合意により、本件土地をもつて本件債務のうち八、〇〇〇、〇〇〇円の債務の代物弁済にあてたこと(本件土地を本件債務のうち八、〇〇〇、〇〇〇円の債務の代物弁済にあてたこと及びその年月日については、当事者間に争いがない。)が認められ、右事実によれば、下坂は当時原告を代理して本件土地を買い受ける権限を有していたものと推認される。したがつて、原告は前記売買により本件土地の所有権を取消したと認められるから、本件土地の代物弁済による譲渡所得は原告に帰属したものと認めるのが相当である。

原告は、本件土地の実質的な買主であり、したがつて譲渡所得の帰属する者は株式会社マヒナプロダクションであると主張するが、本件土地の所有者したがつて譲渡所得の帰属者が原告であることは、前記認定のとおりであつて、これを覆して原告の主張を認めさせるような証拠は存在しない。

3  次に本件土地の取得費について判断する。

前記乙第七号証によれば、被告所部係官は、昭和四六年六月一〇日、三共開発株式会社に臨場して本件土地の取得費について調査を行ない、同社から坪当り一律に二、六〇〇円、総額三、九七八、〇〇〇円で本件土地を売却したとの確答を得たことが認められ、右事実によれば、本件土地の取得費は三、九七八、〇〇〇円であると認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

4  原告は、本件土地の代物弁済によつて消滅したとされる債務額八、〇〇〇、〇〇〇円のうちには、原告が組合から債務免除ないしは贈与を受けた部分があり、右部分は譲渡所得の対象とすべきではないと主張するが、仮に代物弁済によつて消滅したとされる債務の額が代物弁済の目的とされた物件の時価より高額であつたとしても、その差額につき債務免除ないし贈与があつたものとして譲渡所得の金額を計算すべきものではないし、また、原告主張のような債務免除ないしは贈与を証するに足る証拠は何も無いから、右主張は採用できない。

5  原告は、代物弁済に至るまでの管理費用及び処分経費を所得から控除すべき旨並びに、下坂に五〇、〇〇〇、〇〇〇円を横領されたから、右金額を雑損控除すべきである旨主張するが、右管理費用、処分経費並びに横領の具体的な発生原因、日時等について何ら主張をしておらず、そのような具体的事実を認めるべき証拠はないから、右主張は採用しがたい。

以上の次第であるから、本件再更正及びこれを前提とした本件決定は適法である。

三  結論

よつて、原告の本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田耕三 裁判官 菅原晴郎 裁判官 北澤晶)

別表

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